殿さま狸

だいぶ前に読んだ山田風太郎「風来忍法帖」で蜂須賀家政は同作品の主人公にからかわれる役で登場していた。「風来忍法帖」は「忍城水攻め」を扱っていた。香具師である主人公達は、自分達と同類の「野盗」だった蜂須賀小六の息子が「上品な武士」であることについて「二代目はだめだなあ」と茶化していたような記憶があるが、読んだのは大分前なのではっきりしない。ちなみに蜂須賀家にまつわるエピソードで思い出すのは、多分司馬遼太郎が何回かネタにしていた明治天皇と蜂須賀茂昭氏の「小六＝夜盗」説をめぐるやりとりだ。そう思ってwikipediaを見てみたら蜂須賀茂昭氏の項目で言及されていて司馬の文章が引用されていた。何が言いたいかというと、筆者にとって本作の主人公はそのぐらい印象が薄いわけだ。印象が薄さについては著者の他の作品に比べればだいぶ有名な方なんじゃないかという気がする。それに主人公が凡庸な人物として描かれているということも全くない。本作品ではそのような人物の軌跡が情緒的に大きな波風なく描かれているように見える。しかしこう書いてみるとこの「波風のなさ」が曲者である。改めて本作品が「夜盗のような非凡さ＝波乱に満ちた生涯」とそのような父親に対して劣等感を抱きつつ、そのような陰性感情を乗り越えてゆく人物の物語であったことを思い起こす。その「乗り越え」の結果の具象化が阿波踊りということで、ついyoutubeで見た、ゆらゆら帝国「夜行性の生き物三匹」のPVの見事な阿波踊りに連想が及んだ。