LP300選 (新潮文庫 よ 6-1)

吉田秀和氏が亡くなってから早くも4年が経とうとしているけれども、文庫本で、いやそれ以外の形式であっても、これ以上の音楽史を兼ねながら、優れた音楽を取り上げた本はなかなか見当たらない。そして退屈ではないと言うところが、この本の決して忘れられない特徴である。言葉にしてしまうと陳腐になってしまうが、体裁がバラバラになってしまうほど愛読した本は、恥ずかしながら数えるほどしかないのだが、この本はその中でも、最も多く手に取った本である。最初の「宇宙の音楽」から始まって、現代音楽に至るまでこれだけの解説を書ける評論家は、吉田氏以外には居ないとさえ言われてきた。それに豊かな知識と鋭い洞察力によって、初心者にとってこの上ない先導者となってくれた。人間が1人で、数百年に及ぶクラシック音楽の歴史の中から手探りしながら名曲を選択していくのは、困難な作業である。ところが吉田氏のこの本に出会うことによって、本当に救われてきた。もしこの本がなかったら、或いは出会っていなかったら、とんでもない嗜好の持ち主になっていたかもしれない。少なくとも入門したばかりの人間には、どうしても必要な本であるし、また長年クラシック音楽を聴いた人間にとっても座右の銘と言っても差し支えない名著である。発売されたのが1980年代と40年くらい前なので、LP、CDの選択はやや古いと感じる向きもあるかもしれないが、中にはいつ聴いても古さを感じさせない名演も、間違いなく含まれている。いつまでも大切に読んでいたい本である。